よかった、本当によかった。

『私たちのハァハァ』という作品で「クリープハイプのライブが始まったのに、この世界は何にも変わってない」というセリフがありました。私も、シネ・ギャラリーから出た後に静岡駅を暑そうに歩く人たちを見ながら、全くおんなじことを思いました。

「アイスと雨音の上映があったのに、この世界は何も変わってない」


『アイスと雨音』という映画を観ました。しかも2回。京都と静岡で。

レポートでもなんでもなく、本当に単なる感想です。


2017年に小さな町で予定されていた演劇公演のお話で、オーディションで選ばれた6人の男女を中心に、演劇公演の当日までを74分ワンカットで描いている作品です。

とにかく公式サイトがとても素敵なので、もっと詳しいあらすじが気になったり、どんな映画か気になる人は公式サイトも見てみてください。


はじめ、この映画を観に行こうと思ったのは、宣伝用広告の「松居大悟×MOROHA」の文字を見かけたからでした。もともとMOROHAの曲も知っていて、松居監督の名前も知っていたので、「上映劇場だった京都シネマもまだ行ったことないし、よし、行くか〜」くらいの本当に軽いノリで行くことを決定。

先入観なしで、予告編もあらすじも何も見ず映画館に足を運びました。7月3日。


観終わった時、涙が止まりませんでした。というより序盤から涙が止まりませんでした。最近使い始めたマスカラもグチャグチャになっていました。

MOROHAのアフロさんの「時間は全部解決してくれる。なのに、なんで俺は、なんでお前は、今にも消えそうな感情に必死でしがみつこうとしているんだ。」という言葉から映画が始まった時、

ああこれは最後まで冷静にみることができないだろうなあと思いました。


心を揺さぶられながら観たので、帰りの地下鉄では断片的に映画のシーンが思い返されました。

舞台中止がわかった後にひょっこり出てきた若杉さんが「私はお手伝いなので 何もいえません」って想ちゃんに言っていたのが何故かとっても印象的でした。

作品の中のみんなは、全員私より年上に見えたのだけれど、映画館を出た後に調べてみたら私と同年代でした。というより年下の子の方が多い!私と同じくらいの年代の登場人物のみんなが放つことば一つひとつは、とてもさりげないけど、とっても大切でした。


「音楽なんかじゃ救われないよ〜」ってMORNING(演劇)の中の想ちゃんは言っていたけど、私は映画の中のMOROHAの音楽に救われた気がします。

特にUKさんのギターは、どの曲も1音目から優しくて、メロディーというより一音一音がことばのような感じがして、それぞれのシーンにぴったりだと思いました。


映画の初め、「時間が解決してくれる」「どうしていまにも消えそうな感情に必死にしがみついているんだ」ってスクリーン越しに私たちに向かって言っていたアフロさんが

映画の最後では「時間に解決されてたまるか」「俺のだ!返せ!」ってマイクを持って、舞台上の6人に向かって叫んでいたのが、胸にきました。アフロさんの言葉で始まってアフロさんの言葉で終わっていたんだ。って気づいて、(ラストに監督の「カット」はあったけど)登場人物のセリフじゃないのがなんだか不思議だなあと思いました。


エンドロール、主題歌を聞いた時に一番泣いてしまいました。サビの歌詞を聞いた時の感動は今でも覚えているし、帰りの地下鉄でも頭から離れませんでした。

この春、私は親の反対を振り切って京都に出てきました。まだ来て4ヶ月、もう来て4ヶ月です。想ちゃんたちのような、やりたいこともなんなのかわかりません。浪人時代に予備校で描いていた大学生活とはかけ離れているような気がします。毎日がうまく生きれなくて後悔します、しんどくないのにしんどいって言います。悩んだふりをして止まっているのかもしれません。そんな毎日だから、劇中の登場人物たちのことを全然客観的になんか観られなかった。だから余計に胸が痛いです。



観終わって1日経っても2日経っても余韻が消えなくて、もう一回観たいという気持ちが湧いてきました。

のに!

観に行こうと決めた7月6日の京都シネマの最終上映は、豪雨の影響で中止になってしまいました。でもどうしてももう一回、大きなスクリーンで見たいという思いが消えなくて、上映している映画館を探して、一番近い静岡に行くことを決めました。



静岡シネ・ギャラリーさんでの上映は7月21日の一日限りで、しかも松居監督のトークショーまで用意されていました。

2回目の上映もやっぱり客観的には観れなくて、たくさんたくさん泣きました。


松居監督のトークショー、本当に参加できてよかったなあと思います。

トークショーのお話も含めて、少し自分の中で印象に残ったことを。


この映画は、実際の松居監督の経験がもとになっています。監督もまたこの映画の登場人物たちと同じように、準備してきた舞台が中止になるという経験をされたそうです。

監督は、「数字では判断できない気持ちがなかったようにされている。負けた気持ちになった。」と感じたそうです。そんな時「この悔しさも別の仕事が始まったら忘れるよ。」とMOROHAのアフロさんが言ってくれたのが、この映画を作るきっかけになった、というようなことをおっしゃっていました。

私がMOROHAを知ったきっかけの「バラ色の日々」という曲にも


涙が止まらん なんて嘘だよ

明日になれば普通に仕事に行くんだ

忘れられないなんて嘘だよ

時間が経てば薄れていく

あなた以外はなんて嘘だよ

いつかは新たな温もりに触れる

必ず互いが幸せになれる

ただ それが悲しくて今 泣いてる


という歌詞があったなあなんて思い出しました。

https://youtu.be/TvwazA8id-c

アイスと雨音も、喜び、悲しみ、怒り、不安、一瞬一瞬の感情を丁寧に切り取っている感じがして、だからこそ好きだと思えたのかなあなんて思いました。


「言語化できない感情を映画で揺さぶりたい」っておっしゃっていたのもすごく感動しました。と同時に、おんなじことを2年前聞いたような気がしました。

私が松居監督を初めて知ったのは、高校3年の頃で。My Hair is Badというバンドが大好きで、ボーカルの椎木知仁さんがクリープハイプのアルバムの特典映像の短編映画『ゆーことぴあ』に出ると知り、DVD付きのアルバムを買ったのがきっかけでした。そのメイキングでも監督は「言語化できないいろんな感情がむちゃくちゃ画に残ってるような気がしてて/形容できないようなのが 画として撮れた」とおっしゃっていて。

だから、この記事を書きながらめちゃめちゃ悩みました。事実、私はアイスと雨音で言語化できない感情を揺さぶられてしまったから。どう言語化していいのか今でもよくわかってないし、この活字と自分の気持ちがあっているのかもいまいちピンときていません。


でも

銀杏BOYZの『エンジェルベイビー』と、MOROHAの『tomorrow』のMVは松居監督の作品とは知らないまま何回も何回も繰り返して観ていました

私たちのハァハァ』も、静岡に着いた後駅ナカのスターバックスで観て泣きました

京都でアイスと雨音を見た後、チア部の藤原と一緒に『君が君で君だ』も観て超共感しました

2年前の今頃、『ゆーことぴあ』も観て私とはとても遠くて近い世界だと感じました


監督の、どの作品でも心が揺さぶられたのは確かな事実です。うまく言葉にはできないんだけど。


私はこの春から映画を見るのが趣味になって。有名な監督の名前を言われてもわからないし、洋画もわかりません。不朽の名作と呼ばれる映画をたくさん観てきたわけでもないです。

でも、自分が知っている何かと何かが映画の中で綺麗に組み合わさっていたり、間接的に関わっているのを知った時とても感動します。映画を観て、そういうのを感じることが好きです。

松居監督自身が演劇だったり映画だったり、いろいろなことをされているからこそ、監督の作品のどれかを一つ好きになったらどんどん自分の“好きの範囲”が広がっていくような気がします。好きだったものがもっと好きになったり、知らなかったものがどんどん好きになったりできると思います。


『アイスと雨音』で検索をかけてみると、いろいろな感想がネット上にあふれていて。松居監督の作品は、観た人に「文字に残そう!」と思わせるような魔力があるとも感じました。

トークショーの中で最新作の『君が君で君だ』のお話をされていた時に「この映画を観た感想に正解なんてない」とおっしゃっていました。Twitterでも。

アイスと雨音のラストでは、想ちゃんが「映画も演劇もクソだ」と叫びます。今までは、映画の評論サイトでクソだとかいう言葉を見たらショックだったけど、これからはその言葉たちも愛せるような、そんな気がしました。


なんで自分でもこの74分が好きなのか、これだけ書いてもよく分かっていません。でも監督や出演者の皆さん、スタッフの皆さん、そして京都に出てきた自分。何か一つでも欠けていたら、私はこの映画をこんなに大事に思うことはなかったのかなと思いました。


『アイスと雨音』、もし機会があれば皆さん一度観てみてください。世界は変えられないかもしれないけど、きっとじぶんの「今」の心は揺さぶられるはずです。


映画チア部 岡本

映画チア部京都支部

関西のミニシアターの魅力を伝えるべく結成された、学生による学生のための宣伝隊〈映画チア部〉の京都支部です。2018年5月発足

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