ストロベリーフィールズの夢
毎年七夕の時期というのは梅雨の時期で、夜空を見ても何も見えなくて、思い出という思い出はありません。今まで短冊にどんな願い事を書いてきたかも覚えていない。ちゃんと叶っているのかな。
でも今年の七夕は絶対に、絶対に忘れられない1日になりました。
2019年7月7日、『いちごの唄』を観ました。場所はMOVIX京都。単館系映画館での映画体験ではないけれど、とても大事な思い出になったので、チア部日記に記録しておきます。
映画チア部に入って映画をたくさん観るようになりましたが、MOVIX京都に行くのは今回で3回目。しかも先月が初めてで。その時にこの作品の予告が流れました。
告知された時から絶対に見ないといけない!と思っていた作品。
それに加えて大画面・大音量で大好きな銀杏BOYZの曲が聴けたことに、ただただ感動して涙が止まらなくなってしまいました。
その後、愛知・大阪・京都で主演の古舘佑太郎さん、銀杏BOYZの峯田和伸さんのお二人の舞台挨拶があることを知り、即チケットを購入。当日は偶然にも七夕の日でした。
『アイスと雨音』の特別上映会に参加した時にも思ったのですが、こういう舞台挨拶や特別興行は、やっぱりワンマンライブに行った時と同じ感覚がして大好きで。大好きな人しか集まっていないんだなあと感じた時、心の奥がほわっとあったかくなるような感じがするからです。
『いちごの唄』は脚本家の岡田惠和さんと銀杏BOYZの峯田和伸さんの共著による連作短編集を映画化した作品。去年、小説が発売された時に「買おうかな」と迷ったけれど買えないままでいて。今回は前情報もあまり入れず、映画館の席に座りました。
ここ最近、映画を批判的に観ることが多くてどうしても心がぐわん、と動かされることがありませんでした。でもこの作品は違いました。登場人物たちの心の動きに寄り添って、ずっと泣いていました。
映画が始まってすぐ七夕の商店街、そして主演の古舘さんの演技を見た時にこの映画はきっと自分にとって大切なものになるぞ、という安心感がこころに生まれて。
この作品では七夕がとても重要な日として描かれます。鑑賞した前日とその前の日(7月5日・6日)は、出町桝形商店街の七夕祭りで。私は映画チア部としてお祭りに関わっていました。序盤に出てくる商店街の七夕飾りを見ると、昨日まで桝形商店街で見ていた七夕飾りのことを思い出して、胸がぎゅっとなって涙が出てきました。
笹沢コウタ役は古舘佑太郎さんしかあり得ないな、というのも始まってすぐ感じて。中学の頃から憧れだった、あーちゃんと再開した時のシーンが忘れられません。「これってすごいよね!ですよね!」と笑うコウタの姿は健気で、素直で、こんな風に生きたいなと思いました。
ラスト前、コンビニでちくわを食べるシーン。「熱い…痛い…美味しい…辛い…」と自分が感じたことをすぐに言葉に出してしまう姿にも、コウタの素直な性格が表れていて大好きです。
コウタが話したことであーちゃんが笑うと、コウタはニコニコの笑顔になります。一緒にいる人が笑ってくれると嬉しい。そんなことは当たり前のことなのだけれど、コウタの姿を見ていたら、「それってもしかして世界一の幸せなんじゃないかな?」と考えたりしました。私もコウタのように、誰かと話すときは自分ばかりが喋ってしまいます。でもコウタはそのことを嫌悪していないように感じました。むしろ千日ちゃんが笑ってくれればそれでいい、千日ちゃんの笑顔が見れたら幸せ。そんな風に考えているように見えて。私はいつも自分ばかり喋って後悔することがあるので、コウタのように生きていきたいなと思ったり。
コウタとあーちゃんが、毎年七夕の日に行くラーメン屋の店主を、銀杏BOYZの峯田和伸さんが演じていました。ラーメン屋のシーンは本当に大好き!!!声を大にして言いたいくらい大好き!!!!
舞台挨拶での峯田さんいわく「何も考えてない」し「セリフもなかった」そうです。でも、峯田さんが出てくるシーンはとっても安心感があって、少しクスッと笑えて。ラーメン屋の店主が2人を気にかけていたように、峯田さんがこの役を通じてこの作品を見守ってくれているような気がしました。
キャスト、スタッフの皆さんが本当に全員素敵だったのも、この作品を丸ごと愛せた理由だと思います。
まずは石橋静河さん。あーちゃん、こと天野千日を演じていました。私は舞台挨拶があった7月7日に観た後、7月10日にこの作品をもう一度見に行ったのです。おかわり!
7日はコウタの視点で、10日はあーちゃんの視点で物語を観ていたように思います。それほどあーちゃんという存在はこの作品において重要です。
あーちゃんの「生きていける」という言葉が印象的でした。3年目の七夕にコウタへ別れを告げるシーンでも、最後に園長先生とカフェで話すシーンでも、あーちゃんの思いにこころが震えます。誰かが誰かにきちんと想い(それはどんな想いであっても)を伝えるシーンは、やっぱり大事なシーンになります。どんな作品においても。
石橋さんは、映画を見るようになって色々な作品で拝見しましたが、このあーちゃん役が今までで一番素敵だな、と思いました。光に照らされた横顔と、「ばかだねえ」と笑う笑顔がとっても大好きです。
そのほかのキャストの皆さんも。
和久井映見さんと光石研さんが演じる、コウタの両親。コウタを丸ごと包み込んでくれる感覚がして、実家のシーンでは私も実家に戻ったような気分になりました。
岸井ゆきのさん演じる、アケミさん。とっても破天荒だけれど、とっても大事な役だと感じました。『愛がなんだ』に続いてスクリーンで観れてよかったです。
しゅまはるみさんや、ポール・マグサリンさんが演じる、コウタの職場の皆さん。しゅまさんは『カメラを止めるな!』、ポールさんは『夜空はいつでも最高密度の青色だ』で知りました。繋がりを感じて、ただただ嬉しかったです。お二人ともいい役!
中学生時代の3人を演じた、コウタ役の大西利空くん・伸二役の小林喜日さん・千日役の清原果耶さん。3人の演技はこの作品で初めて観たのですが、みんなぴったりで。大西くんの笑顔、小林くんの頼り甲斐のある感じ、清原さんの女神感。3人とも大好きになりました。みんな年下なのかあ、そっかあ。
宮本信子さんは「いちご園」の園長先生役でした。『あまちゃん』ぶりに宮本さんの演技を観ましたが、とってもキュート。そして、とっても安心感のある方。カフェに行く時のお茶目なやり取りは忘れられません。優しくあーちゃんに語りかける姿は、7日も10日も涙。
カメオ出演ではみうらじゅんさん、田口トモロヲさん、宮藤官九郎さん、麻生久美子さんが出演していました。峯田さんと親交のある方々ばかり。過剰な存在感もなく、この作品の美味しいお漬物のような、箸休めのような存在。そっと作品に居てくれたのが嬉しかったです。
そして忘れちゃいけないのが、猫。どのシーンも本当に可愛いし、コウタの優しさに寄ってきているのかな、なんて思ったら、ほんわかした気持ちになれました。猫好きな人、この映画必見です。本当に。
スタッフの人たちも魅力的な方ばかりでした。
監督の菅原伸太郎さん。今作が初の映画演出のことでしたが、本当に素敵な演出ばかりで大好きになりました。次回作もぜひ観たいし、脚本を務めた過去作(ドラマ)を観てみたいなと思いました。
脚本の岡田惠和さん。インタビューでの言葉。
2016年に「奇跡の人」で峯田くんと初めて会って、翌年の「ひよっこ」にも出てもらいました。2年くらい一緒に映像の仕事をしている中で、罪悪感みたいなものがあったんですよね。どこかで「峯田くんを音楽の世界から引っ張ってきてしまっている」という後ろめたさと、ファンの人からの「峯田を返せ」という罵倒と(笑)。映像の仕事でこんなに応えてくれた峯田くんに、何か恩返しする方法はないかとずっと考えていて。僕がミュージシャンなら銀杏BOYZの曲をカバーしてアルバムを作るんだけど、僕は物書きなので、小説を書くことにしました。小説『いちごの唄』は僕なりのトリビュートです。
このインタビューを読んで、岡田さんの「恩返し」という気持ちから愛を感じてとても嬉しかったです。とても素敵な形で映画にしてくれてありがとう!と私の方からも伝えたい…!
そして音楽の世武裕子さん。『生きてるだけで、愛。』でお名前を知って以来、いろいろな場面でお見かけしていました。(映画館のばくーの動画とか!ね!)今回この作品でも世武さんの音楽に触れることができて嬉しかったです。音楽で泣いちゃったところもたくさん…
『夜空はいつでも最高密度の青色だ』を見た時に思った、自分の人生で出会ってきた人たちを掬ってくれた感覚がこの作品にもあって。それは特別な感情ではなくて、観ている自分含め、全員の幸せを願えるような、愛。
4度目の七夕、あーちゃんに会えなかった夜。コウタは、弟であるシゲとその彼女のかずみちゃんと会います。その時に「僕は片想いをしてる。思いっきり。」と2人に告げます。
“思いっきり”という言葉を聞いた時、胸がぐわんとなりました。思いっきりの片想いでもそれは紛れもない恋で。恋は成就してもしなくても恋なのだと気づいて、ハッとさせられました。
パンフレットには脚本の岡田さんへのインタビューが掲載されていました。
「“世の中の人から見たら小さな話。でも当人にとっては世界で一番大きな物語”を書くのが自分の役割だと思っているところがあります。」
この一文を読んだ時、だからこういう映画にわたしは惹かれるし、今後も惹かれ続けるのだろうなあと思いました。
7日の舞台挨拶では峯田さんが、“世界で一番大きな物語”を語ってくれました。
「僕、高校の時に好きな人がいて。一言も喋ったことなくて何もできずに終わったんですけど。プールのとこで、足だけプールに入れて、目があった時があって。その時なんかウインクしてて。それは俺に向けてウインクしたのか、それともなんか濡れててたまたま目に入ってやったのか分かんないんですけど。あれだけで僕、一生楽しく過ごせるんですよ。そういう瞬間があるだけで。そういう映画です。そういう一瞬が自分にとって「うわあ最高だ」ってなる。そういう瞬間ってあると思うんですね。で、そういう人たちにとってうわあ、いい映画だったなって思ってもらえる映画だと思うので。」
10秒間の撮影タイムに撮った峯田さんと古舘さん。ブレブレ。
お話を聞いていて、古舘さんはもちろんですがやっぱり峯田さんの言葉選びはとっても素敵だなあと、ただただ、思いました。
去年の今頃も、松居監督の作品を見て「愛ってなんだ?」って考えていました。だからこそ今、峯田さんなりの、岡田さんなりの、そしてコウタなりの愛の形がこの作品から伝わってきて、私はとっても満足しているのです。
エンドロール。この作品のために峯田さんが書き下ろしした『いちごの唄』が流れます。
このCDは映画を見た人しか購入できない仕組みになっていて。それがとっても嬉しいな、と思いました。お友達の分まで購入!
この作品はやっぱり銀杏BOYZの楽曲ありきで。作品の中でも音楽がとっても大事なものになります。
『漂流教室』で2人を思って、『犬人間』で笑って、『NO FUTURE NO CRY』で肩を組んで歌って、そして音楽で救って救われて。『ぽあだむ』を聴きながらコウタが走る、あの感じは私自身、なんども経験しました。
エンドロールを聴きながら、
主題歌
「いちごの唄」
歌 銀杏BOYZ
作詞 峯田和伸
作曲 峯田和伸
という表記になっていることに気づいて、また泣いてしまいました。やっぱり私も銀杏BOYZが大好きだし、それを生み出してくれた峯田さんやメンバーの皆さんも大好きだと思いました。ずっと好きでいる。
自転車で坂を降ったらあとは飛ぶだけ。
一度ストロベリーフィールドに飛び込んだ2人は、これから、どんな形であろうとも前に進んでいくのだろうなあと思いました。エンドロールに映る、クリーニングしたTシャツとカレンダーの丸印。最後の最後まで、愛が途切れない作品でした。永遠の愛。千日紅。
映画チア部京都支部 岡本
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